ステートメント

ストレンジャーによろしくお伝えください - 石毛健太

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「よろしくお伝えください。」

大学院を卒院して月日は流れ、なんとか生きていくための仕事の中で方々にメールを送っている。要件に「この度は」、「お世話になっております」、「よろしくお伝えください」等々を書き加えて送信ボタンをクリックする。まともな就職活動などを経ずに卒院すると、この種の敬語表現は急に求められる常識となって襲いかかってくる。どうにかこれに対応しようするが、そんな努力も当初は周囲に必死に合わせようとして糊の効きすぎた服を無理矢理に着ているようで、それがいちいちむず痒く感じた。近頃は段々と糊もくたびれてきて少しは体に沿った物になったような気もする。

友人である実行委員の二人から「『ストレンジャーによろしく』のステートメントを書いてほしい」と頼まれた。その場の勢いで受けたものの、なんともとっかかりの少ないこのタイトルにしばらく手が止まってしまうし、春先の三寒四温に振り回され頭はぼやける。ようやく馴染んだと思っていたこの慣用表現も、改めて意味を考えてみるとそういえば何も思いつかない。「よろしくお伝えください　意味」と検索バーに入力した。

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ー「よろしくお伝えください」は、今この場にいない人に対して自分の好意を伝えてもらうための挨拶の言葉です。“よろしく”には複数の意味がありますが、「よろしくお伝えください」の”よろしく”には、「空気や流れに合わせて相手が適切に対処することに期待する」「今後の良好な関係を願う」という意味があります。ー

kufua 「よろしくお伝えください」と言われたらなんと返す？実際にはどう伝える？【あらためて知りたい頻出ビジネス用語＃12】

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「今この場にいない人に対して好意を示す」、「今後の良好な関係を願う」、なるほど。「ストレンジャー」は「見知らぬ人、旅行者、他人」なので、「ストレンジャーによろしく」は差し詰め「見知らぬ誰かとの今後の良好な関係を願う」というような意味になるだろうか。なんというか、あまりに素朴であり、至極当然の道徳原理に映る。

しかし、この朴訥としたアティチュードを現在において表明する必要に駆られ、運営を預かる多田と谷口は東京から遠く離れた金沢にまだ雪も解けないうちに幾度となく足を運んでいる。彼ら自身がストレンジャーとして金沢に入り当地のストレンジャーに出会い、多数の作家というストレンジャーを引き込むために関係性を培い、またそこに数えきれない鑑賞者というストレンジャーを呼び込もうとしている。市場原理や権力構造から離れ、今後の良好な関係を願い、まだ見ぬストレンジャーとストレンジャーとが連鎖的に出会っていく場を作ろうとしている。『ストレンジャーによろしく』においてストレンジャーとはこの企画に多少なりとも関与したであろう私のことでも、あなたのことでもあるのだろう。中央から離れ移動することは、まだ見ぬユートピアを求め見出した当地へ一方的にレッテルを押し付けることではなく、全てが等しくストレンジャーとして、「適切に対処する」折衷を繰り返し求めるために必要な行いであり、そうして第三回目となる『ストレンジャーによろしく』は金沢にて開催となる。

そういえば春は出会いの季節だななどとこの原稿を書きながら思う。先程の索引ページにはスーツを着た男女がそれぞれ二組、握手を交わしている写真が貼り付けられていたなとぼんやり思い出した。もしかして背景は桜が咲いてるんじゃないだろうかと再度ページを開いてみたが、ただの並木道であった。